プロになるということは 止まらない列車に 飛び乗るようなものだ もう二度と降りる事はできない ――負けて転がり堕ちるまでは…… この小さな宇宙(将棋会館)の中で気が遠くなる程の勝ったり負けたりを繰り返すのだ 「負けたくない」と喘ぎながら……
うながされるまま 混乱したアタマで必死に 次の一手を探して 探して・・・ ――そして気付いた なめてかかられていた事も そして今になって僕がそれに気付いてうろたえている事も この人は 全部 全部見透かした上で こうして静かに座っているのだという事
「負けました」 そうつぶやくと彼は マンガみたいな大粒の涙を ボロボロとこぼし始めた 僕はそれをセミの声とデパートのBGMの中でただ黙って見つめていた 多分…この先 何十年も向き合うかもしれない その顔を