「じゃあまたね」 という言葉に 「うん」 と言いかけて口をつぐんだ あの日 ひきさかれるような思いで あの家を出たのに 姉も僕も ――こうして 何も変わらないまま 変えられないまま ・・・姉弟にも 他人にもなりきれないまま・・・・・・
「これで逃げてないことになるのかな」 「逃げてないフリだったらどうしよう・・・」 あの時 思ったんだ あんな風に身ひとつでみんなの中に溶け込めたら どんなに・・・ どんなに・・・ どんなにうれしいだろう・・・って
―――この家の子なら 棋士を目指す人間なら その美しい駒の持つ価値が 意味が 父の胸の内が 解らないはずが無かった・・・・・・ 解らないはずが無かった 義姉が 義弟が その時どんなに傷ついたかも・・・・・・
――嵐の向こうにあるものを 訊ねてみたいと思ったけれど ――それが どんなに 覚悟の無い問いであったかは あの横顔を見た時 突き刺さるように解かった そして 自分がまだ 嵐の中に入ってさえもなかった事も…